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湧別川水系/北大雪山塊・丸瀬布





懐の深い湧別川
 北海道には石狩川・天塩川・十勝川の大河川があるが、湧別川は北大雪山塊を源流とする懐の深い名流だろう。本流は北見峠方面に発するが、二つの支流が特に素晴らしい。一つは、オホーツク海側の最高峰武利岳を源流に持ち丸瀬布で本流に合流する武利川。もうひとつは、平山周辺を源流部を持ち雄大な谷を作りながら白滝で合流する支湧別川。どちらも過剰な森林伐採の過去を持つが、現在では徐々に回復し植物・昆虫・鳥類からほ乳類までその生物相は豊かさを取り戻しつつある。
 湧別川に関しては、残念なことに武利ダム・瀬戸瀬ダム・野上堰堤など多くの堰によって今なお河川が分断されたままで川の機能を十分果たしていないが、昔から「アメマスの川」と名を馳せた武利川には今なおアメマス・オショロコマが豊富に泳ぐ。
 北大雪(きたたいせつ)というのは層雲峡を挟み大雪山系の北東に広がる山塊で、その稜線筋の武利岳・平山は大雪ダムを北から見降ろす位置にある。
 地中には最終氷期の名残の巨大な氷があるといわれ、その影響で丸瀬布には夏でも冷風が吹き出す氷穴(風穴)などもあちこちに見られ、ナキウサギ生息地、コケモモ群生、アカエゾマツ原生林などが人里の標高近くから散在する。この特殊な地質構造もまた白滝ジオパークの一環として注目度が上がっている。エゾクロテン、ヒグマなどほ乳類の生息状況もまずまず健全で、オホーツク海側の最高峰武利岳あるいはそこから続く平山の尾根筋に向かって、山は険しくあくまで深い。
 年間の日照時間が長く夏期には日本一高気温になる日がある一方、厳寒期には-30℃を下回る日がある北海道でも厳しい自然環境だが、風雪に耐えたこの環境で動植物は力強く生き、その北海道らしい自然に私たちは十分触れることができる。知床が世界遺産に認定されたのは海を含んだコンパクトな生態系をなすからだが、サーモンの遡上を除き、知床半島に比べても引けをとらない雄大な自然がこの山にはあると思う。










 まだ北大の学生だった頃、私の興味の焦点は「森と河と人」の関係性で、それは単に生態学的な関係・エコシステムのことではなく、「ヒトのこころ」も含めたエコ・サイコロシステム(?)がイメージにあった。サイコロを振って環境問題を考えようってことじゃなく、ecologyとpsychologyを統括的に捉えた一種の哲学を自分の中に構築したかったのだろうが、それもまた机上の空論ではどうせ絵に描いた餅になる。北海道の自然は箱庭的で、もちろんそれはそれでとても豊かな側面を持ち私は好きだが、アラスカやカナダの森や河をを放浪した体験からすると、要するに「呑み込まれ感」がない。それで若い私はアラスカの原野をめざし、人の棲まない広大な森に自らを放り込んだわけだが、まあ、一種の人体実験だ。そこで人に出合うことはほとんどなかったが、豊かな森があり河があり、数多の生きものが棲んでいて自分を養ってくれた。そこにどっぷり浸かって暮らすとき、自分の中にどんな感情が湧きどういう心境に至るか、そこがサイコロのほうの焦点だった。アイヌやイヌイットなどの先住狩猟民族が古代から築いてきた感覚や信仰を体感し知ること。それが今風にいう「自然との共生」の石杖となると信じていた。この地球の自然に対して人としてのシンプルな畏れや尊敬をもち、なおかつ発達した文明の技術を駆使する姿。それが人類の理想像だと。クマなんて私の暮らす森にいなきゃいないでよかったし、オオカミにもサーモンにもスプルースの樹にもコケにも太陽にも、森羅万象いくらでも感じることがあり、学ぶことはあったのだ。
―――と、真面目に言い訳をしたくなるほど、私はクマの調査をしていてもあちこちに目が行ってしまう。10年ほど前自宅周辺のエゾクロテンを熱心に観察しクロテン日誌を書いていた時期がある。その少し前に秋の大風が吹いて風倒木が山のあちこちに出た。それを払い下げてもらい、ログキャビンを作るためにここに運んで皮を剥き乾燥させたのだが、そのせいでその貯木場を中心にヒメネズミが増えた。それを狙ってクロテンが多く徘徊するようになり、ときに自宅の庭を数頭のクロテンがチェイスして、まるで運動会の様相を呈するのだった。私の自宅は「田舎暮らし」と表現すると田舎の人に「ここは田舎じゃない。山だ」と叱られる場所で、PCワークをしながらふと窓の外を見るとヒグマが通りかかっていたりする場所だが、そんな場所でもヒト一人が暮らすと、周辺の動植物に影響を与える。仕方ないことなので逆手にとって、厳寒の冬に露天の五右衞門風呂に浸かって延々夜中のクロテンの行動を観察するのだが、ある冷えた夜、頭上のハルニレの樹の枝に見たこともない大きなフクロウが舞い降り、私を見下ろした。肩まで浸かって何時間もじっとしていたから何かを勘違いしたのかも知れないが、勘違いで頭を鷲掴みにされても困るので、ザバッと立ち上がりそいつに手を振った。相手がクマなら「Hey!Bear!」とか言うところだが、「違う違う!ほら、人間です!」と丁寧語を使って話しかけたことを今でも鮮明に覚えている。その一件があって以来、ヒグマを追っていてもついつい上を見るクセがついてしまったが、樹の上に見つけるのはフクロウよりヒグマのほうが多いこともわかった。
 ヒグマを山の中に追うのは、私は面白い。出合っていろいろやりとりをするのは、もっと。だけれど、面白いのはヒグマだけじゃなく、山には沢山ある。発見があり、不思議があり、驚きがある。だからやめられない。この不思議に思ったり、発見したり驚いたり、もっと言えば恐ろしがったり、居心地よくて身を委ねてボーッとしたり、それがエコサイコロのエッセンスでもある。



丸瀬布の山・川・生きものたち

 図鑑のように書いてもあまり意味がないので、私なりの認識・言葉で主観を交えつつ、丸瀬布から白滝にかけての自然を一部紹介しよう。

武利岳
 武利岳の標高は1876m。これはオホーツク海側の山岳としては最高峰だ。武利岳の北側山麓は比較的険しく、深い山並みが続いている。武利川を遡り、看板通りに車を進めると武利川から離れ、しばらく標高を稼いで武利岳登山道入り口につく。この一帯は、もちろんヒグマの生息地。平山登山道とならび、遭遇や目撃も、まあ普通に多い。しつこいようだが、だからといって危険視するのも考えもので、恐れおののいて避けているよりは、スキルを身につけて楽しんだほうがいいと私自身は思う。
 ちなみに、平山・武利岳ともに、小学校などの遠足登山などに使われる山で、雪の消えた夏期には特殊な山岳技術はまったく必要としない。が、秋の尾根筋の強風と気温低は残雪期の雪渓とともに侮れず、それぞれの時期に適切な装備を持とう。このエリアの山の気候は、だいたい中部地方あたりの山と比べて1000mほど嵩増しして考えればいいので、武利岳の山頂は、北アルプスの縦走路くらいの気象条件ということになる。
 私が個人的に注意しているのは雷だ。もう10年以上前の話だが、白滝ジオパークの活動で二の沢経由で平山稜線に登ったときのこと。稜線上でにわかに雷雲が稜線を丸ごと被い、その時はじめて真横に走る稲光を見た。メンバー全員が生きて戻ったが、相当危ない状況に晒されていたと思う。その雷雲はさらに太平高原方面に進み、電気柵の施設に雷を落としたが、ちょうどその時近くで作業をしていた農家の人がしばらく気絶する事態を引き起こした。稜線は見晴らしがよく心地のいい場所だが、常に「戻る判断」を懐に歩こう。

 武利という漢字が当てられ「むり」と読むのが地元では普通になっているが、正式にはアイヌ語の通り「むりい」と読む。「ムリイ」とは「イラクサの群生」という意味だそうだが、ヒグマの調査で斜面を登っているときなど、素直に頷けるときもある。武利の集落近くには「無利意平」という稜線があり、また「無類岩山」の語源もこの「ムリイ」のようだ。
 ただ、2016年の波状台風で武利岳へのアクセスは厳しいものになっている。

支湧別の谷~平山
 より深くこの山塊の自然を感じたい人にお勧めなのが白滝・支湧別川の源流にある平山方面だ。白滝側からの登山ルートはいくつかあるが、支湧別本流筋のメジャールートで十分面白い。稜線筋は高山帯で、ウラジロナナカマドの林の上にハイマツ、コケモモ群生地が広がる。雪渓が残る時期には雪渓の溶け際から息吹く新芽を食べるクマに出あえ、それ以降の時期にはウラジロナナカマドやハイマツ・コケモモの実を食べるクマを見ることができる。ときどき、ヒグマの糞や現物を見た無知で良心的な登山者が通報して「○月△日ヒグマ出没!」の看板が登山道入口に立つが、滑稽で思わずクスリと笑ってしまう。クマは生息。そのクマの暮らす場所に出没しているのはこっちだ。看板を立てるなら「この先、ヒグマの生息地!注意」の看板だろう。大雪山系に比べるとマイナーで登山客も少ないが、登山ルートの難易度が低いわりにじつに心地よい山で、知る人ぞ知る名山だ。ここを訪れる登山者の意識が高くマナーがいいため、これまでに特に危険なクマというのは平山周辺に出現した試しがない。私自身、白滝~平山方面のヒグマとの遭遇確率は丸瀬布よりも高く、特に平山稜線筋は視界が開けることから三度登れば一度というくらいに目撃できる、平山のベアカントリーにちょいと出没しに行ってみよう。


武利川と武利ダム
 武利岳を源流に持つ武利川は、50年前に比べると伐採の影響で水量が減るなど環境変化が著しいと言われるが、今なお清らかな水を比較的豊富に持っている。この川も、丸瀬布川・湧別川上流同様、丸瀬布市街より上はヒグマの生息地と見ていい。道道・武利線から山の落ち口などにヒグマが観察されることもときどきある。この湧別川屈指の支流は、下流域のダムなどが出来る以前は「アメマスの川」として名を馳せ、現在でもその名残を見せる。「いこいの森」付近からアメマスはまずまず豊富に生息し、武利ダムに降りた個体は、ときに70㎝程度まで大型化する。そこから、各支流に入ると、上流部は特にオショロコマの聖域になるが、現在なお、この天然イワナの生息数は多い。
 下流部のヤマメ(サクラマス)に比べると、イワナは骨が硬く北海道ではどちらかというと敬遠されてきたが、そのことが現在までアメマス・オショロコマを生かしてきた理由のように思う。が、林道が沿う支流などでは、近年生息も減少傾向をたどりつつあり、釣りはできるだけ「その日に食べる分をいただく」程度にとどめておきたい。武利川流域を遡行するだけでも楽しいが、これらの支流群は、6月以降は特にヒグマの活動が多いので、不用意な行動は慎みたい。
 
(↑)武利川に生息するイワナ二種・アメマスとオショロコマ。武利川本流域のオショロコマでは30㎝を越えるスモルトが確認されている。




この山の生きものたち

 ヒグマやエゾクロテン・キタキツネは別として、ほかの動植物に関して特に集中的に観察したり調査したことはなく、あくまで自宅周辺に暮らす「お隣さん」を書いてある。あしからず。実際、人生が1000年あれば「これも知りたい。あれも観察したい」はいくらでもあるのだが、現実的にヒグマに集中すれば他ができない。ここで紹介する動植物の生態等に興味を持った方は、専門家のサイトなり書物なりを頼ってもらったらいいと思う。

ヒグマ

 サイトがクマだらけなのでほどほどに書こう。
 いざとなったらその攻撃力・破壊力は他の追随を許さない。現在の北海道ではオスの最大級は500㎏クラスだ。こんな強獣が周囲の山に普通に暮らすこと自体、目の当たりにするたびに、ただ感心するやら感激するやら。そして、この野生動物の攻撃性の低さ。ここには素直に感嘆する。北海道では、最も知られずモンスター的に恐れられているヒグマだが、少なくとも一定のベアカントリースキルを実践していれば、見かけたら危険・近隣にいるから危険という種類の動物では決してない。

エゾシカ
 エゾシカはニホンジカの亜種で大型種。北海道では、今や害獣キングの様相を呈しているが、秋に山に響くオスの雄叫びなどは、冬の到来を予感させる風物詩的なものだ。山を歩いていて、こちらを警戒してキャンキャン鳴くのもまたいい。これまでヒトの営みがシカを過剰に増やしてきた経緯があるが、今後、シカをむやみに増やすことなく、害獣のレッテルが取り外されればいいなあと、そんなことを考える。
 ただ、普通はクマよりシカには安心していると思うが、特に秋以降、繁殖期の雄ジカは攻撃性が増しヒグマ以上に油断ならない。


エゾクロテン
 エゾクロテンは、全長60㎝程度のイタチの仲間。現在でもその生態がわからないことが多く、知床でも精力的に調査・研究がされているが、外来種のニホンテンとの交雑が考えられ、北海道における生息域も減少している可能性がある。幸いにして、北大雪山塊にはいまだクロテンが比較的多く棲む。クロテンと呼ばれるゆえんは、夏毛が黒っぽいことから。動物写真家などによってよく撮影される冬毛のクロテンとは別に、上写真のような時期もあるが、名の由来になった黒いクロテンを撮影するのはなかなか難しい。ロシアで言うセーブルがクロテンにあたり、その毛皮は高級品とされた。柔らかくしなやかで、毛が細くて肌触りがいい。
 自分より大きなニジマスを捕獲して水の中から引きずりあげ、はるかに大きなキツネにも樹の上から降りてきて対等に威嚇し合う。夜間には寝ているカケスを捕獲し、ネズミならそう簡単に逃げ切れない。私自身は、この動物に「北海道最強のオールラウンダー」という称号を与えている。
 樹上生活者のクロテンはヒグマのルーツとの仮説を私自身は持っていて、仮に正しいとすると、サルをルーツに持つヒトと対比しうる。大地に降りたクロテンは身体を大型化し外敵に適応し気性を穏やかに変化させ、強獣ヒグマとなった。同じく地上に降りたサルは脳を大型化しそこの生活に順応し、賢獣ヒトとなった。そのように簡略化して捉えることも可能だろう。クロテンの手は、形状・機能がヒグマに酷似しているが、サル由来のヒトがエゾクロテン由来のヒグマよりはるかに攻撃性が高いところは何故だかわからない。

 イタチ系ではマイクロクロテンと名付けていいようなオコジョというイタチがいる。たぶんヒメネズミと相撲をとってもいい勝負のこの小さなイタチは、どうやらヤチネズミが繁殖する場所では極端に少なく、

キタキツネ/エゾタヌキ
 一時期、ドラマや映画で取り上げられ、北海道のマスコットのような扱いを受けた野生動物だが、現在では害獣としての扱いが一般的で、北海道各地でかなりの数が毎年有害駆除で捕殺されている。外来種エキノコックスの宿主であり、それが嫌われる理由のひとつのようでもあるが、その寄生虫も自然に北海道に渡ってきたものではない。キツネを嫌う前に、そのヒトの過失にも目を向けたい。以前はよくあったドライブインのエサねだりギツネとは異なり、山の野性に暮らす個体からは、その自然の厳しさと、そこで暮らすたくましさを感じる。

 野生のキツネは、夏期には街灯下の昆虫も精力的に食べる雑食性でありながらネズミやウサギを狩りをするプレデターだが、本州でも対比されるタヌキのほうは、どちらかというと「拾い食い」タイプで、ひと言で表現すると鈍くさい。除雪した林道の左右の壁を登れずウロウロしているのもだいたいタヌキのほうだ。キツネとタヌキが混在するエリアでは、キツネのほうが優位で希にタヌキを咥えて運ぶのが観察できる。






鳥類:私は眼があまりよくないので原則的に「大きな鳥」をよく視認し識別も辛うじておこなえる。

オオワシ・オジロワシ・イヌワシ
 こうして写真にしてしまうとどうということはないが、ワシ類は、近くに寄るとバカでかい。ほとんど怪鳥の域に達している。ワシ類は、おおかたシカの動向に適応しているようだ。北大雪でも、シカ駆除・狩猟が盛んになるにつれ、どこからか遠征してくるようになっていて、一部は営巣しているようだ。特に、上空からの視界の利く積雪期はオオワシ・オジロワシがよく見られ、層雲峡方面からのイヌワシの飛来もあるらしい。シカ死骸を見つけるための空飛ぶセンサーとしても、カラス・カケスとともに働いてくれる。


クマタカ
 クマタカの語源「クマ」は大きくて強いという意味。単独で空を飛んでいても、ワシ類同様その大きさはよくわからないが、カラスに追いかけまわされたりすると、その大きさに驚く。個体識別ができていないので数はわからないが、比較的よく見られる大型の猛禽で、これを見ると、川のヤマセミ同様、何か得した気分になる。ワシ類のようにのんびり枝に止まっていることを見ることは少ないが、人里付近でも空高く飛ぶ姿を見られるかも知れない。










ノスリ(?)
?マークをつけたが、「大きな鳥」の代表格である猛禽類でもタカの類は結構種類が多く、幼鳥時にまた別のカラーリングだったりするため、特に特徴的なクマタカなどを除き、相当大雑把に「タカちゃん」とか呼んで澄ました顔をしている。鳥類の専門家やバードウォッチャーからすると、相当阿呆に見えるに違いない。ただ、ワシ・タカ・フクロウの猛禽類に関してこの山のポテンシャルは相当高く、専門家が訪れても十分楽しめる山だと思う。












シマフクロウ/エゾフクロウ
 フクロウ類は独特の雰囲気を持っている。特にシマフクロウは木の枝にとまっているだけで非常に存在感があり、バサッと羽ばたいて宙に舞うとさらに大きくたくましく見える。希少だ・絶滅危惧だという先入観や後付けの理屈抜きに、目の当たりにしたとき圧倒的な力で心が動かされる生きものだ。私の感覚では、この山塊でその力はヒグマに次いで強い。夜の山に低く響くフクロウの声はどことなくこころ内を神妙にさせるものだ。アイヌ語ではカムイという精霊に近い概念が信仰の基礎となっているが、特定の限られた動植物に「カムイ」の名が与えられている。ヒグマはキムンカムイ、シマフクロウはコタンコロカムイ。そう呼んだアイヌの人々の感覚が、この山に暮らすとよくわかる。

 シマフクロウは天然記念物だが2006年前後から武利川支流域に姿を現しはじめ、2016年の波状台風で各支流が破壊されたため本流域まで移動して姿が見られた。ヒグマ調査用のトレイルカメラにもシマフクロウの動画が偶然撮られるようになり、ヒグマ生息域の踏査で希に出合うが、私が知るシマフクロウの暮らしは情報が非常に断片的でほとんど推測の域を出ない。2017年も継続的に本流域で確認されていることから、特定の個体が本流域まで行動圏を広げた可能性もある。この年、比較的多くの人がシマフクロウを目撃しついには行政にも知れたが、シマフクロウの生息地内で繁殖・子育て期に雨宮号をそのまま運行するのかどうか、あるいは盛大な花火大会を続行するかどうか、行政の態度には注目を要するだろう。
 シマフクロウのこの山塊における食物のうち魚類ではそのほとんどがオショロコマろう。10年前になるが山彦の滝より上の武利川上流部は、釣りに入ると河床がザザッと動くように錯覚するほどオショロコマ・アメマスが多く生息していた。その生息数経年変化が十分わかっていないことに加え、2016年の波状台風の影響がそれらの魚類に与えた影響がわからないため、今後のシマフクロウの動向に関してはなんとも言えない。
 これだけの大きな鳥なので、北大雪のような内陸部の山塊ではよほど豊富なオショロコマを必要とすることが推察でき、決して稜線筋の鳥ではないばかりか奥山に暮らすのも難しいことも推察できる。河川周りに生活するヒトにとってが意外と身近なはずの鳥だと思うし、ヒグマ同様、配慮しながら「共生」を果たすべき相手だと感じる。

 北海道では珍しい大型猛禽類ではイヌワシの存在が囁かれるが、層雲峡方面か飛来しているものと推察できるものの、2017年現在、私自身はその存在を確認できていない。

コゲラ・アカゲラ・クマゲラ

 キツツキのうち、コゲラ・アカゲラは比較的人里周りの林などにもよく見られる。クマゲラは大型で、それより古い森、直径40㎝以上の樹からなるエリアに多い。とはいえ、山から山に移動する際には谷を空高く横断するため、人里近隣でも飛翔する姿は見られる。独特の鳴き方で飛ぶことがあるので、それで真上に発見することも多い。クマゲラは素っ頓狂な目つきの鳥だが、赤い帽子がチャーミングで、存在感はある。

ユキウサギ
比較的牧草地でよく見るウサギだが、牧草地に迂遠の山の斜面や林道も走っているときがある。ユキウサギの活動状況とキツネの生息数に相関があり、キツネがユキウサギを食物として利用しているくらいまではわかっているが、その生息範囲・生態などに関しては、よくわからない。






エゾリス
エゾリス・シマリスに関しても、どこというわけではなくあちこちで見かける小動物だが、北海道に特有なのはエゾリスではなくシマリスのほうで、エゾリスより小ぶりの亜種が本州にもいる。リスというとひまわりのタネが思い浮かぶが、エゾリスは雑食性で昆虫から堅果まで比較的何でも食べ、冬期間の食糧として若い松ぼっくりやドングリなどを集めて貯蔵する性質もある。耳の毛がチャーミングなリスで見かけるとついつい見入ってしまうが、そのわりに生態等については、よくわからない。



エゾサンショウウオとアカガエル
 この山の沢筋には湧水が多い。湧水があればヤチ(湿地)も池も多くできる。その湧水続きの池で繁殖するのがエゾサンショウウオとエゾアカガエルだ。アカガエルは本州のカジカガエルに似ていて、田んぼ周りのカエルとは異なる。春になってしばらくすると水辺のあちこちでコロコロと高く涼しげな声で鳴く。
 サンショウウオとアカガエルは5月~6月にかけてだいたい同じ時期に孵化し同じペースで成長するが、はじめはどちらも似たようなオタマジャクシ(幼生)だったのが、成長とともに次第に差異が現れ、サンショウウオには露出したエラと手足がそれらしい位置にはえてくる。
 写真は湧水の多い沢から引いた水が流れる庭の池だが、どこからやって来るのか、毎年この二種が繁殖/成長劇をこの池で繰り広げる。左がアカガエル、右がサンショウウオの幼生だが、サンショウウオのほうが獰猛でアカガエルのオタマジャクシを丸呑みしようとしている姿をちょくちょく見る。







オオイチモンジ
 オオイチモンジは丸瀬布を代表する蝶で、市街地の街灯のモチーフにもなり、町によって人工繁殖もおこなわれているようだ。比較的普通に見られる蝶で、庭にもよく飛んで来るが、本州方面から訪れる蝶の専門家に言わせると珍種・希少種の類だそうだ。この蝶を求めて採取に来る蝶コレクターも多いが、10年後も50年後も、ここに来ればいつでもオオイチモンジが飛翔する姿を見られるふうであって欲しいと思う。
  最近妙に愛着がわいて、クマの調査中にもよく見つけるようになった。メスは比較的高い位置を優雅にヒラヒラ飛ぶのを見るが、オスを見つけるのは、だいたいうちの犬の糞の上。写真もフン好きオオイチモンジの一枚。私はメスも犬の糞に来ていると思うのだが、専門家は何故か否定的な見解だ。その根拠は確かなのかな?私自身はメスも糞に来ていると思うのだが・・・

補足)近年、誘因餌で餌付けして効率的にオオイチモンジを捕る「リンゴトラップ」がこの山でも見られはじめているが、それはやり過ぎだし邪道だろう。野生動物だろうが昆虫だろうが、それを捕獲するために餌付けするのはいいこととは思わないし、実際オオイチモンジ用の甘い香りの誘因餌は同時にヒグマを引き寄せ食べさせる結果となるため用いるべき方法ではないと思う。人為物で餌付けしなくてものんびり丸瀬布の山の中を歩いていれば、それこそ自然に優雅に飛ぶオオイチモンジが見られるはずだ。大きな虫取り網をかついで林道をウロウロし一喜一憂している姿はこの山の風物詩だが、ほのぼのしていて私は好きだ。リンゴトラップで効率性を手に入れた代償に失うものの大きさを自覚した方がいいのでは・・・私は、なくしてはいけない風物詩のようにさえ思う。

ミヤマカラスアゲハ(またはカラスアゲハ)
 
 希少性からするとオオイチモンジに遠く及ばないのだろうが、珍種・希少性という先入観や情報抜きに美しさ・親近感ではミヤマカラスアゲハは群を抜いた存在だろう。ちょうどヒグマのフキ食が活発な頃、林道の湿った場所やヒグマの放尿跡で群れになって吸水する姿が見られはじめる。専門家によればこれらのほとんどがオスということらしいが、私には雌雄があまり見分けがつかない。

 昆虫もヒトも生命ということに関してはまったく等価だが、その性質においてヒトやヒグマと昆虫は対照的で、蝶を含めた昆虫は体験や学習によって変化(成長)する性質が非常に乏しく、私にはときどき動く植物的な見え方をすることがある。行動パタンが遺伝子によって支配されるので、逆にそこに不思議を感じることも多い。蝶は特定の成分に対して、それぞれの種がそれぞれ反応するようだ。
 


(通称)雪虫
「雪虫が飛ぶと雪が降る」
 このように北海道では言われる。
「おっ、雪虫か」と気がついた瞬間、脳裏に真っ白な世界が交錯する。雪のない寒々とした風景の中に、まるで雪がチラホラと舞うように飛ぶ雪虫は、何か特別な意味合いをもっているように思われる。
 雪が降る時期の直前に集団でハッチ(羽化)でもするのか。小さくてきっと他愛のない虫だが、生態を詳しく調べようとしたためしがない。
 雪虫が飛ぶと、雪が降る。私にとっては、いつまでもそういう不思議な虫でいい。


 


花たち

 この花たちは、どこかの高山植物かと思いきや、じつは私の庭で草刈りをしようと思ったら一生懸命咲いていたので、ついいつもクマの糞や足跡ばかり撮っているレンズで、できるだけ可愛く撮ってやったもの。ちなみに、クマの糞は、可愛く撮ろうとしたことはない。私はこの花たちのどれも名を知らない。刈るのを躊躇したが、蚊やブヨの温床となるので、犬のまわりだけは刈らしてもらった。実際はここに載せた倍以上の種類の花々が咲き乱れていた。人は雑草と一括りに言うが、私は変に植えたコスモスやチューリップよりこの山の風雪に耐え人知れず生きている雑草に心動かされる。


山からのいただき物
山菜

木の実




丸瀬布の観光

 丸瀬布(旧・丸瀬布町)は湧別川および流域の河岸段丘に沿って北大雪山塊に深く入り込んだ細長いエリア、いわゆる中山間地域である。もともと林業の町として栄えたが、人口は年を重ねるごとに減少し続け、現在2000を割った。街の中心部も北海道にありがちなゴースト商店街になっているが、武利川中流域の武利ダム周辺に「いこいの森」ができてからは観光立地のエリアとして再生が進められ、もともとひなびた温泉宿だった翠明荘(すいめいそう)が2000年売却されてお洒落なリゾートホテル風の「マウレ山荘」に変わったことに加え、近年では遠軽町をあげて取り組まれる「白滝ジオパーク」の一翼を担うエリアとしてますます注目を浴びている。武利川中流の「いこいの森」と「マウレ山荘」を中心としたエリアは「いこいの森ーマウレ山荘アウトだ観光エリア」と呼んでもいいほど道内外から多くの来訪者があり、釣りや山菜採りをはじめ、登山、MTBサイクリング、散策、昆虫採集、写真撮影など様々なアウトドアアクティビティーのエリアとなって道内外から推定20万人ほどの来訪者を呼んでいる。

白滝ジオパーク
 世界ジオパークというのは世界遺産同様ユニセフがらみのジオ(地質)を重点とした認定制度で、その前段階の日本ジオパーク認定をすでに白滝ジオパークは受けている。
 白滝ジオパークはマウレ山荘ができた直後あたりから地質の専門家・学識経験者・地元の有志などが集まり「白滝黒曜石遺跡ジオパーク構想」として練られ、各種調査・研修やモンゴル遠征などがおこなわれつつ、現在では遠軽行政内にジオパーク推進課が配置され遠軽町あげての取り組みになっている。白滝庁舎を改装した「白滝ジオパーク交流センター」「遠軽町埋蔵文化財センター」はかなり見応えのある展示がなされており、ジオ(地質)などにこれまで興味がなかった人にも躊躇なくおすすめできる。年間パス(1000円)がとてもお得だと思う。
 ジオパークの理念・真骨頂は、博物館の見学や専門家の講義で何かを知るということではなく、現場の露頭や風穴・地形・植生などに足を運んでナマの体験として感じてもらうところにある。その体験ポイントはジオポイントと呼ばれ遠軽町内全域に広がっているが、特に白滝・丸瀬布エリアには興味深いジオポイントが散在する。文化財センターをザッと見たら地図をもらって外へ出てジオポイント巡りをしてみる。そこで疑問や興味が湧いたら、またセンターに戻ってみる。場合によっては、学芸員をつかまえて詳しく聞いてみることもできるだろう。それで年間パスがいいのだ。
 2017年にはジオパークの各種作業を実際に担っていく目的で「NPO法人えんがぁるジオ倶楽部」が設立され、NPO法人丸瀬布昆虫同好会・ホラネロ(ミュージシャン)・生田原フィッシング倶楽部・NPO法人きたらしらたき・ヒンメリの会アウリンコ・ジオザリ倶楽部などが参加・協力団体となり、羆塾もヒグマ対策を担いそこに参加することになった。えんがぁるジオ倶楽部のもとにそれぞれの知識や技術をもった団体・グループが集ったことにより、今後ますます白滝ジオパークは活発になっていくだろう。

   

 現在、遠軽町にはジオパーク推進課が設置され、上述のミュージアム・NPOなどとともに遠軽町をあげての精力的な取り組みに至っているが、その石杖を築く時代には、各分野の個性的な専門家が赤石山を中心に相当な踏査に入って道なき道を歩き、様々な事実を読み解いていった。地学関係の数々の研究者に敬意を表す。
上写真3枚)左から
 ・二ノ沢~平山稜線筋ルート視察
 ・ヒグマの生息地をいく
 ・あじさいの滝~赤石山踏査



 白滝ジオパークのいろいろに関しては、明晰に解説された以下を参照したほうがいいように思う。
  ・白滝ジオパーク(遠軽町)http://engaru.jp/geo/
  ・白滝ジオパーク推進協議会 http://geopark.engaru.jp/
  ・えんがぁるジオ倶楽部 https://engaaru-geo.jimdo.com/


いこいの森
 旧丸瀬布町時代に町の活性を取り戻すべく建設されたアウトドアレ観光施設で、観光シーズンには林業の町だった頃の名残のナローゲージ機関車・雨宮21号(雨宮号)が園内を運行している。もともと清楚な感じの心地よいキャンプ場だったが年を追うごとに拡大し、現在では昆虫生態館・温泉やまびこ・パークゴルフ場・ドッグラン・テニスコート・ゴーカートなどを含む一大アウトドア観光施設となりつつある。もともとの「いこいの森」を知る人の中には揶揄を浮かべて肥大という表現を使う人も多いが、年間10万人以上の集客力はこの地域に一定の経済効果をもたらしている。

 私自身この30年間「いこいの森」を見てきたが、近年ではキャンプ場というより多目的遊園地の様相を呈し都会からの集客力が非常に優れている一方、本当にこの山の自然を楽しみたい釣り人・登山者・アウトドアマンやナチュラリストが敬遠する傾向も出はじめトラブルにも発展しているようだ。確かに、マニュアル通りのロッジ型テントやスクリーンタープの中でバーベキューをし、用意された遊具で遊んで帰るだけの活動形態は、わざわざヒグマの生息地の真っ只中でやる意味がなく、周辺の山や川が素晴らしいだけにいささか残念に思う。



マウレ山荘
 上武利の集落から太平高原に至る観光道路「太平ジオパークロード」の入口に立つお洒落なホテルで、イングリッシュガーデン、旧マウレクラシックパーク(パークゴルフ場)、マウレメモリアルミュージアム、足湯、観光果樹園などを擁し、泉質・料理ともリゾートとして非常に質が高い。太平高原に星空を見るためのリムジンの運行もあり人気を博しているが、自前で栽培した野菜を料理に出したり朝採れの山菜をテンプラにして添えたりと、そのもてなしスタンスにも感心する。
 丸瀬布でシカ用のネットフェンスを用いているのはここマウレ山荘果樹園だけだが、ヒグマ対策では、いち早くクラシックパークに電気柵を導入し、現在なおトレイルカメラで監視してヒグマ対策をおこなう先進性も兼ね備えている。
 開業当初の支配人が北大水産学部の出身で、整備を進める中でマウレ山荘敷地内に「ヤチウグイ」という珍しい魚を発見した。ありがちなリゾート開発なら知らぬ顔でその生息地を埋め立てて潰してしまうところだが、マウレ山荘は「ヤチウグイ生息地の保全」という開発スタンスをとった。これには正直私も驚いた。驚きつつ、その後マウレ山荘周辺でヒグマの事故が起きないようアシストする気になったのだが、ここの自然にできるだけインパクトを与えない経営理念、周辺の環境とできるだけ調和しようという運営は訪れる人に伝わるだろうし、今後とも堅持していって欲しいと思う。


ミンタルの森(財団法人メビウス)
 先述の通り「いこいの森」からのナチュラリスト離れにはそれなりの理由があるが、この山にはせっかくこれだけの豊かな自然があるため、あらゆる面で対照的なナチュラリストのための拠点・施設を必要とした。2019年設立予定の財団法人メビウスの拠点となり子供たちの自然教育の新たなる取り組みが開始される「ミンタルの森」は、様々な点で「いこいの森」とは対照的な方向性を持っていて、原則的にそこにある森林・植生・野生動物・鳥類などをそのまま残した運営がなされる。羆塾の活動理念の一角をなす周辺の自然環境との調和をめざした「ECO Harmony Program(エコ・ハーモニープログラム)」に沿って化学物質・殺虫剤・除草剤などを極力排除した運営がなされる予定である。ビジネスが目的ではないため集客力・動員数は意図的に「いこいの森」の100分の1以下に抑えられた運用になると推測できるが、その空間の質、リスクマネジメント、アクティビティーは北海道でも最上級ものをめざすことになるだろう。


白滝のキャンプ場
 丸瀬布ではないが、どうしても記しておきたい場所がある。白滝のキャンプ場だ。正式名称は「白滝高原キャンプ場」というらしい。太平といいここといい遠軽町民はよほど高原好きなのか・・・ここにも牧草地と森林はあっても高原という高原はない。電動ゴーカートもテニスコートもパークゴルフ場も昆虫館も温泉も機関車もないが、北海道の自然に触れようとバイクで訪れる遠来の友人や自然に親しんだ登山家やナチュラリスト、あるいは海外からの友人を私が連れて行くのは、ここ白滝のキャンプ場だ。「いこいの森」に比べれば施設的には何もないようなキャンプ場だが、立地条件が素晴らしくキャンプらしいキャンプを楽しむことができ、ジオポイント巡りや平山登山の拠点としてもいい。どう表現すればいいか、風や山や空や香りを純朴にありのままの自然を肌で感じることのできるキャンプ場といえば伝わるだろうか。大雑把に山積みにされた玉切りの丸太を、備え付けのオノで自分で必要なだけ割って焚き火を起こし、自分で五右衞門風呂をわかして入ることもできる。
 「いこいの森」が遊園地・多目的レジャーランドだとすれば、白滝のキャンプ場は生粋のキャンプ場。私自身、学生の頃、ユーコン、アラスカ、北海道で年間の250日以上をテントで暮らした時期があるが、白滝のキャンプ場はカナダやアラスカのキャンプ場を彷彿とさせる。自然を楽しむコツは、誰かが何かを与えてくれるのを待つのではなく、ただ足元にある取るに足らない何かに驚き、楽しみを見つけることだろう。だから、本当は箱ものやイベント、サービスは最低限でいい。白滝のキャンプ場は、自由で気ままなのだけれど一定レベルの自己責任とその元でのマナーを要求してきているようにも感じる。これは日本においてはかなりハイセンスなことでもある。500円で割った薪を買うのと積んである丸太を自分で斧で割って使うのと、私なら後者のほうが断然いい。
 この白滝のキャンプ場のゆったりとしたたたずまい。これが現代人にとっての真の贅沢でもあるだろう。身も心も委ねられる白滝のキャンプ場は私にとっては貴重な存在だ。集客力・経済効果至上主義にだけは陥って欲しくないと思う。
    
   清楚という形容がふさわしいたたずまいの白滝のキャンプ場。



観光スポット

 丸瀬布も白滝も山なので、紹介してきた上記の武利岳・武利川をはじめ数多の自然がすべて観光スポットといえばスポットなのだが、遠軽町が積極的に観光スポットとして紹介したり整備したりしている場所を中心にまとめておく。

大平(たいへい)高原
      

 丸瀬布市街の南西のムリイダイラから続く平らな稜線にできた広大な山上農地で標高は570~690m程度。丸瀬布市街からは450m、「いこいの森」からでも400m弱登った稜線筋にある。もともと地元では高原などと呼ばず単に「たいへい」と呼んでいたが、遠軽町が観光地化を進め太平高原と呼ばれるようになった。現在は、だいたい町の観光案内ではそれらしく「高原」がつくが、もちろん高原とはいっても天然の高原ではなく鬱蒼とした森林を伐採したあとにできた人工的な牧草地が広がっていただけで、近年では牧草の代わりデントコーンもつくられるようになったため、今後いつまで高原と呼んでいけるかは定かでない。
 とにもかくにも現在は太平高原のデントコーンの作付け面積も小さく、非常に見晴らしのいい高原的でさわやかな空間となっている。特に夜間は星空が素晴らしく、ジオパーク関係・マウレ山荘などで「星空を見るツアー」が催されたりするほか、三々五々と夜間の太平高原に登る人も増えた。
 もともと農作業・町有林作業関係のために舗装された町道が国道333と武利方面から上がっていたが、現在は「太平ジオパークロード」と名付けられ観光道路として宣伝され観光客も多く利用する。ただ、小綺麗なアスファルト道路でついつい錯覚を起こしがちだが、ここはどう見ても山の中だ。太平周辺はヒグマが多いことで有名な場所でもあり、年間にクマ目撃件数が10~20件ほどはある。逆に言うと、運がよければ、この開けた牧草地の先にヒグマが歩いたり寝転がったりしている姿ものんびり見られる。

 太平高原に星空を見に上がるときの注意点は概ね四つ。
  ・太平ジオパークロードは特に夜間クマの歩行・横断が多いため、クルマのスピードは控えめに。
  ・無闇にクルマから降りて歩き回らない
  ・飲食をしながら星を見ない。香水などは極力避けて。
  ・デントコーン畑には近づかない



補足)よほどきっちりクマ用の電気柵を張ってメンテナンスをしなければ、人里離れた山の中にヒグマの好物を大量に植えれば必然的にヒグマのえさ場となる。だからといって、シカ肉を仕込んだ箱罠を仕掛ければ、さらに多くのヒグマを誘引し、なおかつその周辺で興奮させ、観光地としての最低限の安全性を確保できない。実際にそういう例があったのだが、あまりに危険すぎるためその箱罠は町にかけ合い撤去してもらった。太平高原に限らないが、ヒグマの存在を無視した観光行政は危険だ。今後、行政には事実本意で合理的な安全対策が望まれる。


山彦の滝・鹿鳴の滝
 丸瀬布の街から「いこいの森」方面へ向かう道道は通称・武利線と呼ばれている。マウレ山荘を右手に見ながらその武利線を武利川に沿ってさらにさかのぼっていくと、数㎞でゲートが閉まっていてそこに山彦の滝の駐車場がある。駐車場から滝までは整備された登山道風の道があるためスニーカーでも行ける。山彦の滝は滝の裏側に回り込んで眺める「裏見の滝」だが、訪れる時刻としては太陽が滝にさしかかる午前中がベストだ。山彦の滝から近くの鹿鳴の滝までの道があり、山側を歩いて鹿鳴の滝経由で道道武利線に戻るルートもある。小一時間で一周できるコースなので、時間に余裕があれば歩いてみるといい。
 どちらの滝周辺も当然もヒグマの生息地でときどきクマが目撃されるが、2006年以来、原則このあたりまでのクマに教育を施してきていて、毎年無警戒グマの把握にも努めているので、ベアカントリーの基本に忠実に振る舞っていればまず危険な状況には陥らないと思う。ガムやペットボトルであってもゴミだけは捨てないように。もしゴミが落ちていたら、是非拾って持って帰ってもらうとありがたい。

 北大雪の彦の滝といえば多くの登山者は聞き馴染んだ名だろう。もともとアイスクライミングの滝として管内はおろか本州方面からも厳冬期に訪れる登山者が多かった。現在はアイスクライミングは禁止されカラフルにライトアップされた滝が一般ツアー向けの観光地となっている。丸瀬布の観光行政が滝に目をつけてから登山者を閉め出すまでの禁止劇と観光地化があまりに一方的で強圧的だったことに釈然としない登山関係の人も多いかも知れない。
 

ジオポイントNo21(風穴)
 武利線途中のサケマス孵化場の水を供給しているのが荒川の沢だが、その荒川の沢に沿う林道をさかのぼると幾つかの風穴が林道沿いにある。ここは白滝ジオパークのジオポイントに認定されている場所だ。ジオポイントに指定される前は、よくクマの調査で飲み物を隠して冷やしたりしていたものだが、第三氷期の名残の冷風が吹き出しているのだから、夏には休憩場所にもすこぶるいい。ただ、このあたりもヒグマが何頭か活動している。

 この際だからまとめて書いたほうが合理的だが、ここで紹介している遠軽町の勧める観光スポットはすべてヒグマの生息地で私のヒグマ調査エリアの中にあり、相当数のヒグマが活動している空間だ。例えば今年(2017年)のデータでは、上述した二つの滝の裏山に7~8頭のクマを確認しているし、風穴を通って太平高原に抜ける荒川の沢の林道沿いでは親子連れ二組を含むやはり7頭のヒグマの活動を確認している。たかを括って油断していれば突拍子もないバッタリ遭遇もあり得るが、「ベアカントリーへようこそ」で記したことを念頭に、やるべきことをきっちりやって、やるべきでないことをやらないように行動していれば、クマとのトラブルは限りなくゼロに出来る。無闇に怖れる必要はない。
 

神霊水
 現在は山彦の滝の駐車場で武利線が通行止めになっているため神霊水へ行くには相当時間と労力が要るが、山彦の滝の駐車場からさらに徒歩か自転車で3つほどゲートを越えて進むと、武利川沿いに写真のような碑が立っている。神霊水と名付けられた清楚な感じの湧き水が周辺の山の落ち口にある。周辺のガレ場には少なくとも数年前までナキウサギも生息していたが、林道整備後、ナキウサギの確認が取れていない。
 通行止めの影響で現在は遠軽町も大々的には観光ポイントとして宣伝をしていないが、きっと歴史ある湧き水なのだろう。
 この方面はもともとヒグマの生息が多いエリアだったが、スーパー林道が閉鎖されている影響で、ヒグマの活動が林蔵沿い・武利川沿いに寄ってきている観がある。一見ジョギングにも最適なアスファルト道路に見えるが、ここに限っていえば、単独で入るのを極力避け、もちろんベアスプレーは必ず携帯しよう。


 武利岳-平山-天狗岳-北見峠の稜線を越えた層雲峡ほどではないが、北大雪山塊には昔の探検映画で見たような、ちょっとした奇岩の山も多い。中には、自衛隊が訓練に使っている岩壁もあるらしい。一方で、山頂部が平らな不思議な山もこの山塊の特徴だろう。鍋を逆さに置いたように見え、単刀直入に「鍋山」と名付けられた山もある。遠軽町が勧める観光スポットをざっと紹介してきたが、実際はこの山全体に発見がありスポットが無数に散りばめられたような状態だ。山の実質は深く険しく豊かで、なかなかのものだ。




 

12+240+(18+780+18)+12=1080  780=28+724+28

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