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2.ハンドラーとの関係性と服従訓練

 これに関しては、細かく書いていくと膨大な量になるため、重要なエッセンスをできるだけ具体例を交えて書きたいと思う。

「信頼と尊敬」で結ばれた関係
 これまで述べてきたような事実・事情から、MSBDをきっちりコントロールするためには、まずしっかり関係性をつくらなければならない。GSDの場合、生後6カ月で訓練を始め、一歳半でIPOを取得するのが順調なスケジュールだが、それに比べるとMSBDの訓練開始はかなり遅く、訓練開始が生後1年と2~3カ月ということが多い。
 特にオスの場合その時期に反抗期のような状態がやってくるが、それを受け流すのではなく、また避けるのではなく、あえて反抗期が純然と現れるように育てつつ、正面で受け止めてから本格的な訓練開始という手順になる。それまでは、とにかく関係作りと情操教育。性格づくりに専念する。訓練開始が遅れることに関しては、関係が一定レベルでできあがって、いったん訓練開始となれば、その習熟スピードはGSDの比ではないため、まったくネガティブに考える必要はない。

 「信頼」は安心につながり、安穏とつつがなく暮らすだけならばそれで十分だが、ヒグマ対策という危険で難易度も高い作業をハンドラーの意志に沿って連携しておこなおうとした場合は、「信頼」に加え「尊敬」まで得られないとMSBDは自発的に自らのポテンシャルを十分発揮してくれないし、いざというときにコントロールがにわかに外れ、一時的に制御不能になる可能性もある。

 オオカミのパックではオスメスともにそれぞれのリーダーをアルファと呼ぶが、その両アルファの上に立つ存在として飼い主・ハンドラーが存在していなくてはならない。その意味でその飼い主のことをオオカミの研究者ツィーメンは「超アルファ」と呼んだが(Erik Ziemen『Der Wolf』2003)、私もそれを踏襲している。
 MSBDの育成・統率というのは、ひとことで言うと「優秀なリーダー論」なのだが、オオカミにとってどんなリーダーが理想的で従いたくなる存在なのか、それを正しく理解し、できるだけ鮮明にイメージし、超アルファという形で具象化する作業がMSBDとの関係作りであり、服従訓練のための最短かつ最強の道になる。「信頼と尊敬」で形成された関係では、上述のように制御が外れることはまずなく、恐らく、オオカミのパックが全体として最大限に能力を高められるのが、尊敬を集めたリーダーによってパック全体が統率されたその状態だ。MSBDでもそこをめざす。


「叱る躾」一本
 昨今の犬の訓練士は、まるでアザラシの調教と勘違いしているように、とにかくトリーツ(ご褒美のおやつ)を常用したがる。そして、「褒める躾」と称していちいち大げさに褒める。しかし、本家のオオカミのパックには褒める躾もなければ、指示を聞いたからとご褒美のおやつがもらえるわけでもない。オオカミは「叱る躾」一本であの見事なまでのパックの連携を実現させている。オオカミが褒める躾やトリーツを用いないのは、その方法を知らないからではなく、そこに彼らが生き抜いていくための合理性がないからだ。つまり、犬の訓練士の用いる方法は、家畜化が進んだイヌという動物に最適な方法であって、オオカミや狼犬・MSBDに対しては限界を低くする方法、ポテンシャルを引き出しきれない不合理な方法ということになる。

 MSBDの育成では家畜化していない本家オオカミの方法論を採用し、叱り一本で育成から統率までをおこなっている。ただ、オオカミ流を人がおこなえるように具体的な方法をリファインする必要があり、そこにはかなりの観察と論理性が要る。簡単に言うと、叱る内容と叱りのタイミング・強さがとても大事なのだが。
 褒めるほうもそうで、指示を聞いたから褒めるということはまずしないが、私が感心し本気で褒めたいと思ったときには無邪気に褒めるし、特に、自分よりも弱い立場の個体に配慮し行動したときには、素直に褒めることがある。またあるいは、褒めることはできないが、叱れなくなるようなこともある。


頑固勝負と配慮
 MSBDの育成を一言で表現すると「頑固勝負」みたいなところがある。自らの意志を外圧によって曲げないという要素が、どうやら信頼や尊敬の核となるようなのだ。実際、私自身、犬相手の頑固勝負では全戦全勝でここまで来ている。しかし、ただ頑固であればいいわけではない。
 オンリーシュで一頭の若犬MSBDと散歩をしていたとする。すると、分岐点にさしかかり、犬がリーシュを引っ張って左方向に歩こうとしたとする。その場合、私は絶対に左には進まない。その場で杭のように動かなくなり、まずはリーシュが弛むまで黙ったままじっとしている。そのうち若犬は左に進むことをあきらめ、渋々右に進むふうに心の準備を整えるが、そのときはそのまま右に進む。これで第1段階は終了だ。
 後日、同じルートで散歩をし、またその分岐にやって来た。ここでの犬の反応は個体差があって、「左に行きたいが右に進もうとする個体」と「遠慮がちに左に進もうとする個体」があるが、どちらの場合もとにかくいったん止まり、犬に話しかけてリーシュを左にはじき、左に進路をとる。これで第2段階が終了。
 三たびその分岐の前に来たとき、犬がさりげなく立ち止まるか、チラリと私の顔を見て指示を仰ぐかすれば、この課題はすべて終了になる。
「勝手に犬本意に進めるわけではない」
「強引にリーシュを引いても、私の意志が曲がらない」
「私が犬の気持ちも十分配慮している」
という三点を学びつつ、チームとしての行動は私がコントロールしているという活動スタイルを学ぶ。頑固であることは重要な要素だが、それ以上に、犬に気を配り、できるだけ尊重する気持ちがないと、頑固の威力を発揮しない。


一緒に乗り切る体験
 一般的には、犬を安穏と平和に暮らさせてやるのがいいと考える向きがあるし、家庭犬の場合それでいいと思う。しかし、ベアドッグの場合、少し違うところもある。信頼は犬に安心を与えうると書いたが、安心を与えておけばいいというのとはちょっと違う。安心の前に、恐怖・焦燥・困惑などのネガティブな心理を伴う状況に犬を置くことが、私のMSBDの育成では有意義で好ましい。
 MSBDには本能的に怖れる対象があり、そこには重力も含まれるし、ヒグマもまたそのひとつだ。また、後天的に何かの経験で恐怖心を抱くようになる対象もあるだろう。そういった恐怖や不安を克服していったほうがいい場合もMSBDには多々あるわけだが、その「乗り切り方」がMSBDにとっては大事だ。つまり、ハンドラーが関与し、ハンドラーのリーダーシップできっちり乗り切ることに成功して、その恐怖・不安を克服できれば、犬にとってはもちろんプラスだが、ハンドラーと犬の関係性にとても大きないい影響を与える。

 その場合、注意点は三つある。
 まず、ハンドラーが犬の性格と能力を推し量り、まずまず頑張れば乗り切れる課題を与えること。第二に、もし仮に犬に不測の事態が起きて窮地に立たされたら、ハンドラーの能力できっちりカバーしてやれること。最後に、何をトライするにしても「行け!」ではなく「ついて来い!」というスタンスで犬を引っ張ること。
 この三つをしっかり守れるならば、犬が持つ恐怖心や不安は手のひらを返すように自信と信頼・尊敬に寝返る。


コマンドを最小限にする
 コマンド(指示・命令)は基本的には視符(ジェスチャー)・声符(声で出す指示)で犬に伝えるが、何らかの合図と犬がとるべき行動が一対一で対応していれば、何でもいい。MSBDをオフリーシュで用いる場合の遠隔コマンドでは無線でカラーに伝わるバイブレーション・電子音を常用しているが、クルマのクラクションで三種類ほど、またあるいは一定の合図であれば何でもいい。
 MSBDの使える言語数や程度を現す言葉の理解は、GSDに比べてかなり優れているが、「マテ・動くな・トマレ・走れ・歩け・ゆっくり・右・左」などの基本的なコマンドに始まり100ほどは優にコマンドを覚えることができ、また、驚いたことに二つ以上のコマンドを「右+曲がれ」というように複合的に使えることも、初代ベアドッグの魁の検証でわかった。
 そうなると、犬をコマンドがんじがらめにしたくなるのも犬を飼う者の人情だろうが、その検証のあと、私は真逆にコマンド数を最小限にする方向に振った。その結果、現在では「マテ・止まれ・動くな・COME」という4つのコマンドだけを仔犬期から集中的に教える方式になった。
 育成のキモはコマンド数ではなく関係性であり服従訓練である。いくら数を覚えても、いざというときの利きが悪ければ意味がない。そのため、仔犬期に教えるコマンドは「COME」一つでもいいくらいだ。その代わり、その「COME」をいついかなる場合でも確実に利くようにする。そのほうがはるかに重要なことと考えた。
 実際、訓練所などのフィールドで100%利いているコマンドが、林道上で目の前をシカが横切って逃げただけで容易に利かなくなることは、仔犬・若犬の時分はよくある。その状態でコマンドの数をどんどん増やすより、そういう不測の事態に直面しても利く関係性を盤石にするほうが重要で、近道に思われる。その気にさえなれば、MSBDのコマンド学習能力がずば抜けていることは証明されているのだから。


 私が犬に向かって何か言い出すと、だいたいにおいて「うるさい、黙れ」式になる。そして、イヌに判断を任せる場合には、「見りゃあ、わかるだろ?」「考えてわからんか?」式になる。
 随分傲慢でずぼらなハンドラーだと思われそうだが、我や自立心が強いオオカミ特性によって「自分で解決するために自分で考える能力」が長けていて、「見りゃあわかるだろ?」式がきっちり機能する。また「うるさい、黙れ」式は、じつはオオカミ流で、そのパックのルール・掟には若い個体は四の五の言わず従うようにできている。どちらの流儀も、オオカミ特性の強いMSBDには絶妙にマッチした方法なのだ。ゆえに、育成の方向としては、指示を一生懸命待つ犬ではなく、とにかく自分で考えられる犬をめざす。



3.対ヒグマ作業の実地訓練―――精度と安定性を上げる

 どんなに素晴らしい犬がいて、ハンドラーとの関係が良好でも、実際にヒグマ対策をミスなく安全におこなっていくためには、訓練が要る。急峻な山やヒグマに対して経験を積ませたり、実際のパトロールのメソッドを覚えさせたり、様々なケースに対してどう動いたらいいか的確に判断できるように導いたり。
 
 ここでは、「ヒトへの馴化訓練」同様、写真を多く用い簡単な説明を加える方式で、何のためにどのような訓練をおこなっているか、それを少しピックアップして書いてみようと思う。なお、MSBDにおいては、一般犬とは異なりオフリーシュ(ヒモ無し)が活動の基本形になり、オンリーシュは限られたシチュエーションで用いる補完的な活動形態に過ぎない。


オンリーシュメソッド
 通常犬では、散歩の基本形は脚即歩行かヒールウォークが原則となるが、ベアドッグの場合、ハンドラーが逐一MSBDの態度や表情などの反応を観察し状況を把握しなければならないため、犬はハンドラーの前を歩く。また実際、細い獣道(けものみち)を行く場合も多く、横に並んでの歩行は無理があることも多い。
 オンリーシュで歩くのは、だいたいにおいて「服従訓練が不十分な若犬」か「ヒトの活動域で周囲の人を驚かせたくない場合」の二通りある。

 


リーシュの意味
 日本では、小型犬ばかりが流行っている影響か、ここを勘違いしている人がとても多いように感じる。いや、勘違いしているから小型犬に意識が流れるのかも知れない。遠軽の街に買いものに行くと、まるで「綱引き」をしているかのような風情で犬と散歩をする人を見かけ、ついつい面白いので見入ってしまうが、まず、リーシュというのは綱引きの綱ではない。
 原則的には、このリーシュは常に一定の緩みとテンションを持っていなくてはならないもの。テンションは、だいたい人差し指と親指でリーシュを軽くつまんで保持できる程度。その緩んだ状態から、リーシュをいろいろな方向にはじいたり、グッと押さえたりして合図を送るツールだ。
 左写真のリーシュの影を見てもらうとわかりやすいと思うが、この程度の張り方が基本になる。





 リーシュによって力尽くで犬を止めようなどと思った段階で、MSBDのコントロールはおぼつかなくなるし、育成の方向を間違える。MSBDの体重はだいたい50㎏程度だが、右写真の散歩では4頭なので200㎏を越えている。こんな塊を力で止めようなどもってのほかだ。
 MSBDではリーシュの長さは2mちょっとに設定してあるが、その距離から犬が前に出すぎてリーシュが張りそうになったらトンとリーシュで合図を送る。この合図は「少し速すぎだ。それ以上前へ出るな」的な軽い注意の合図になる。

 例えば、オンリーシュで夜間訓練などをおこなう場合、私はヘッドライトを頭につけるが、原則的にはライトを点灯させない。犬の目を殺してしまうからだ。ところが、歩く場所が鬱蒼とした林になると、多少月があっても真っ暗で、犬の動作や表情などほとんど何も見えない。そこで、リーシュを軽く張り、そこから伝わってくる情報に神経を集中させるわけだ。その意味で、犬の反応がリーシュから伝わりやすいのは「カラー」であって「ハーネス」ではない。ハーネスやドッグベストを着けていても、必ずカラーを首につけ、そこにリーシュをセットする。
 この意味で、リーシュは犬の動きや心理状態をハンドラーに伝えてくれるヒモでもあり、MSBDとハンドラーをつなぐ大事な通信線ということができる。
 こういう事情から、MSBDには市販の「大型犬用リード」というのは使っていない。太く重く、材質的にも感度が悪く、いろいろな合図を鋭く犬に対して送れないからだ。当然、犬からの反応も鈍くなる。それで、市販品に比べて直系が1/3~1/4程度(断面積で1/10以下)の特殊な繊維でできたロープから全部つくってある。このロープは同径のステンレスワイヤーより強度があるが、強さより感度が重要な点だ。オンリーシュでベアスプレーを用いる想定があるため、長さは2.2~2.5mの間で制作してある。
 この細くて強くて感度のいいリーシュは、右写真のようにフィギャーエイトで左手に保持することもできるため、好きな長さで適宜使うこともできる。


 ベアドッグの模索を開始した当初はオンリーシュを比較的多用していたが、初代ベアドッグの魁と凜をオンリーシュで連れているときに大型オスのbluff chargeを受けつつ、リーシュが小径木に絡まって二頭が動けず肝を冷やしたこともあり、現在では、本当に必要と思われる場合を除きオンリーシュメソッドは使わない。
 また逆に、ベアドッグにオンリーシュしか使わないという前提であれば、別にMSBDなど使わずだいたいどんな犬でもセンサーとしてはいいように思う。恐らく、オンリーシュでできるMSBDの作業内容は、全体の10%にも満たないだろう。

 なお、「幼犬の頃からリーシュに慣らさないといけない」というイヌの定説があるが、それはMSBDにはまったく適用できない。今の飛龍らの代では、私との関係性が盤石になる1歳までにどの個体も1~2時間程度しかリーシュをつけたことがなかったが、1歳になってからの初めてのリーシュ訓練で、10分後にはほぼ適正なリーシュのテンションで歩けるようになった。逆に、この初オンリーシュ訓練で、犬と自分の関係性がきっちり育まれているかどうかを量れることになる。


オフリーシュメソッド
 上に示唆したとおり、MSBDを採用する意義はこのオフリーシュメソッドにあり、その条件でこそMSBDのいろいろな特性が真価を発揮する。

A.車両を用いる場合

進む基本形
 オンリーシュメソッド同様、ハンドラーはMSBDの動作や態度などを逐一見ながら進む形になるため、MSBDは車両の前方10~50mを進む。進む時速は、ヒグマの探索メインではトロットで5~10㎞/h程度(HIKE・遅い)、体力トレーニングをメインに置く場合はギャロップで通常20~30㎞/h程度(RUN・速い)の巡航速度になる。
 特に探索メインの進み方では、複数の犬がどういう陣形で進むかはMSBDに任せる。どうしてその陣形になるか、ちゃんと理由があることが多いので、原則的に、何でもかんでもこちらで定型を決めてやらせてしまうより、できるだけ自由度を残し任せるのがいい。その自由度の中で、その空間のヒグマの活動密度や年齢構成など、周囲の情報が現れてくるからだ。
 ハンドラーは、上述のスピードで車両を運転しながら視覚を使ってヒグマの現物・痕跡をチェックしつつ、MSBDの態度・動き・表情から得られる周囲の情報を推察し、さらに事前の調査結果や知識・経験などから推理を働かせて、その空間で何がどのように起きているかを把握する。ひとつやふたつの情報で何もわからなくても、いろいろな角度から累積した情報があれば、かなり正確に断定に近い形でわかることもある。
 ヒグマの調査やMSBDの訓練では、この推理把握がとても重要なため、ハンドラーはときどき車両を停めて痕跡の確認を詳しくおこなうが、その場合、MSBDも止まり、その場で待つか、車両の位置に戻って作業が済むまで待つ。


 MSBDの対ヒグマ作業は通常2~4頭でおこなうが、ある個体に特定の課題があるときなどは単独での訓練をおこなうこともあるが、そこでヒグマに遭遇しチェイスになる場合もある。そのため、半人前の若犬1頭で訓練をおこなうことはできるだけ避ける。

(右写真)夜間にヒグマが往来することが多い観光道路。ヒトの活動が始まる前に「露払い」パトロールをおこない、事前にヒグマの側を遠ざけて観光客とヒグマの遭遇を防止する。その作業の終わり頃、朝陽が差した。

最も多用する2~4頭の陣形。



 2頭のMSBDを連れるということは、性質の異なる対ヒグマセンサーを二機連れていることになるので、2頭のボディーランゲージの差より、周囲のヒグマの状況はより正確にわかる。



体力トレーニングメインのギャロップ

 ヒグマをチェイスし追いついたときに息が上がって疲れ切っているようでは話にならない。野生のオオカミ並みの筋力・体力・心肺能力もMSBDには必要だ。場合によっては、あえて標高差と勾配が大きなコースでトレーニングをおこなうこともある。ヒト不在の空間では仔犬も含めておこなうことも。

そのほか

(左写真)車両を停めればMSBDは待つのが鉄則だが、その場で待つか車両まで戻って待つかは、犬同士意見が分かれることもある。こちらとしては、どちらでもいい。
(右写真)ヒグマの痕跡・気配が乏しい場所では、このようにだらけた感じの一列縦隊になることも。こういう犬の態度一つ一つでハンドラーはいろいろを読む。 

異変を感知した場合
 ハンドラーが車両を止めた時とは逆に、MSBDのほうが何かの異変を感知した場合は、MSBDはその異変の確認作業を道路を外れて自由におこなうことができる。







里練と山練―――空間的な訓練種別
 「山練」とは「山での訓練」の略で、原則的に「クマが居てもいい空間」に走る林道を起点におこなう。山練の自由度は比較的高く、仔犬・若犬を連れての習熟訓練も山練でおこなっている。原則的には、林道の近隣に居るヒグマを確認したら、チェイスに持ち込み追い払うが、その際、反抗的な態度のヒグマがあれば、「牙当て」などの結構荒っぽい方法も用いてヒグマにストレスを加え、MSBDができるだけ圧倒的な優位に立つようにしている。
 「里練」とは「里山での訓練」の略で、ヒグマの生息地とヒトの活動地の境界帯付近でおこなう。観光エリアでは、様々なタイプのヒトに遭遇することがあるため、原則的に連れるMSBDの頭数は3頭までとし、仔犬・若犬は連れない。この空間でヒグマに遭遇すれば、山練同様、ヒトの活動から遠ざけるほうへ追い払うが、それはむしろイレギュラーなケースで、それよりも重要な点はMSBDの活動を誇示しヒグマに知らせることである。
 つまり、山練でヒグマの側にMSBDへの警戒・忌避を強く確実に植え付け、ヒトの活動域周辺ではMSBDのマーキングのみによって、その警戒・忌避を強く発動させるというのが、羆塾のおこなっているヒグマのコントロール方法だ。この方法によって、ヒトの活動域周辺では「派手な威嚇」ではなく「穏やかな威圧」によってヒグマの行動をきっちり望ましい方向へ変えることができる。
 



夜間訓練―――時間の空白を埋める
 無警戒型のヒグマが市街地や観光施設でトラブルを起こすとき、その前兆が周辺の夜間にでることが多い。その前兆を見逃して放置しておくと、そのヒグマが日中に大それたトラブルを起こして騒動になったりする。猟友会ベースのヒグマ対策では、夜間のまともなパトロールやヒグマの追い払いはまず不可能だが、そこを克服することで、大トラブルの発生を事前に止めることができる。
 夜間の対策をおこなうためには、夜間の訓練が必要不可欠だが、羆塾では訓練全体の約1/3を夜間訓練に当てている。


 嬉しい誤算? でも困った

 MSBDの林道や緩斜面でのスピードは概ね「シカ>MSBD>ヒグマ」、また崖斜面や濃い笹藪を含む空間では「ヒグマ>MSBD>シカ」となるだろう、程度に魁と凜の経験から想定していた。
 ところが、MSBDの育成過程で、林道でのスピードでもシカを上回るケースが相次ぎ、また、ヒグマについていけないだろうと踏んだ崖斜面においても、MSBDが想定外の能力を発揮できることがわかってきた。
 つまり、視認してチェイスできるようなケースでは、MSBDはシカにもヒグマにも追いついてしまうことが多いという結論に達したが、MSBDの嗅覚は非常に鋭敏なうえに、ワンワンとうるさく吠えてアピールするる行動がないため、一度のアクションの空間を制限しないと、結局そのチェイスに持ち込むことになってしまう。

 写真は、私が三点支持でも登るのに難儀しそうな崖斜面を、落ちるのと大差ないスピードで駆け下る2歳の峻。上腕の強さがこれを可能にしていると推察できるが、登るほうも、その上腕と、ものを握れるほどの長い指と握力、そして視覚からの情報を瞬時に処理して筋肉に伝えられる脳によって、それほどスピードを落とさず駆け上ることができる。


 ヒグマの追い払いでは、ヒトの活動域周辺には「フラフラするな」と同時に、「居てもいいよ」の空間を時間軸とともに設定し、メリハリをつけて追い払いをおこなわなくてはいけない。この山のどこにいてもMSBDに襲撃される的な学習は好ましくなく、そのメリハリをつける空間の設定はハンドラーがおこなう必要もある。
 林道を基本的な形で進んでいるとき、「チェイスを開始するときのヒグマの林道からの距離は200m以内」という原則もそういう観点から私が決めたが、現在までに「できるだけコンパクトな追い払い」というのをめざすようになった。





進む道路上または近隣にヒグマを感知した場合―――浮遊臭・音
 MSBDは、風向きによってはかなり遠方のヒグマでも浮遊臭を感知するが、経験を十分積んだ個体に関しては、概ね500m以上離れたヒグマに対してはチェイスする意欲が乏しく、特に急峻な地形では見送る態度をとる傾向が強いようだ。ハンドラーとして求めているのは「およそ200m以内のヒグマに対するチェイス・追い払い」なので、それ以上離れたヒグマを追った場合は、原則的に早い段階で止めてMSBDを全頭手元に戻す。そういう呼び戻しを繰り返すことで、「200m以内」というアクション開始の条件は徐々に学習していく。

通常の訓練では、だいたい以下のようなフローでヒグマに対している。

【用語説明】
 追跡:目に見えないヒグマを痕跡臭で追う方法で、時速は5~20km/h程度。視覚を併用する場合もある。MSBDの嗅覚はかなり鋭敏で、GSDに比べると鼻を地面に近づけなくても新しめの痕跡臭を正確に追える。迷ったときだけ鼻を地面に近づけるため、追跡スピードが総じて速い。

 チェイス:視覚か聴覚で捕捉しているヒグマを追う動作で、時速はmax60㎞/h程度。MSBDのオオカミ特性により、あらゆる地形・植生でスピードの落ち方がとても小さく、また、通常犬ならば進めない急峻な崖地形でも駆け上ったり下ったりすできる。

 牙当て:獲物を仕留めるとき以外の荒っぽいランゲージだが、牙をガツンと一瞬当てて、瞬時にヒグマの攻撃射程外に引く動作。ボクシングでいうジャブのようなもので、その動物を仕留めるための攻撃とは異なる。牙当ての場所は尻か後脚だが、そのあたりはゴム弾を当てるのと同じで深刻なダメージを与えうるものではそもそもない。

 樹上への追い上げ:MSBDがそう意図して樹上に追い上げているわけではないが、小型のヒグマはMSBDとの距離が詰まってくると、切迫し樹上に退避する傾向が強い。

 取り囲み:ヒグマがMSBDに追いつかれた場合、牙当てでヒグマの動きを止め向き直らせることも多いが、巻き狩りの動きで連携してヒグマを徐々に包囲していくこともある。取り囲みになった場合は牽制・牙当てなどを複数のMSBDでおこなうが、やりとりをするヒグマとそれぞれのMSBDの距離はアイヌ犬よりも遠く、7~10m程度はある。1頭ののMSBDが正面から牽制すると同時に、別の個体が後ろに回り込み、チャンスがあればヒグマのケツに牙当てをおこなう。この場合も阿吽の呼吸であくまでチームとして連携して動く。MSBDにはヒグマの前で「興奮しない」というオオカミ特性が発揮されるが、立ち回りは終始冷静でヒグマの正面から突っ込んでいくことはしない。

 ノーアクション・追跡中断・チェイス中断:無理だからあきらめるのではなく、無意味と判断し中断する。MSBDにとっての意味は、要するにヒグマと対峙し威圧・威嚇でやりとりをする遊びだが、一定の距離や時間で私が呼び戻すので、だいたいの制限時間・制限距離を過ぎれば「中断」という行動パタンになる。この点、MSBDにとってのヒグマの追い払いは「私の決めたルールの範囲で、冷静におこなうスリリングなヒグマ遊び」的なものになるだろう。



 また、チェイスしたヒグマに対しては、だいたい4通りの進み方がある。
1.追いつきかけたヒグマが、咄嗟に樹上高く退避する。(若グマの場合)
2.地形や植生の関係でヒグマになかなか追いつかず、チェイスをやめて戻ってくる
3.追いついたヒグマが向き直り、取り囲んで牽制・「牙当て」のやりとりをおこなう。
4.シカ死骸を食べているヒグマを追い払った場合は、チェイスの距離が短く、これまでの事例では、50~200m程度でMSBDはシカ死骸の現場に戻った。ただし、1歳程度の若いMSBDに関しては、単独で逃げたクマを深追いする場合がある。

 そのほかの変則的な事例として、兄弟グマ2頭に対してMSBD2頭がチェイスに入った場合、兄弟グマが別々に逃げ、MSBDが一頭ずつそれぞれの若グマを追い場合がある。また、原則的に親子グマへのチェイスが起きないように事前の調査をおこなったり、現場でも注意しつつ、それが起きた場合は即座にMSBDを止めて呼び戻すようにしているが、仔熊だけが樹上に退避し、母グマとのやりとりになる場合もあるようだ。その場合、樹上の子グマにはあまり頓着しない傾向がMSBDでは強い。

 MSBDがヒグマのチェイスに入った場合、どういう進み方をしているかは、MSBDにつけたGPS発信器からの情報を端末で表示し、周辺の地形や植生を加味しながらハンドラーが読み解くことになるが、どういうケースで、どのタイミングでどういうコマンドをかけるかは、直感も含め解読・判断・指示のスピードが必要とされるため、ハンドラー側の訓練がそれなりに必要だ。発信器からは2.5秒おきにそれぞれの犬の位置情報が送られてくる。

1と判断した場合は、10分程度の時間を与え、その後呼び戻す。
2と判断した場合は、一部の犬の追うスピードが落ちて躊躇が現れた段階で、全頭呼び戻す。
3と判断した場合は、静観の構えをとり、犬がばらけた段階で全頭呼び戻す。
4と判断した場合は、リーダー犬をだけを呼び戻し、そのMSBDとともにシカ死骸の検分に出かける。
 ただ、大型オスなどでは断続的に移動しながらMSBDと対峙するケースもあり、2と3の区別はとても難しく、ヒグマにMSBDが振り切られてからしばらく静観することも多くなる。


 Addvance:訓練帰りのある出来事―――脳をフル回転させること
  2021年5月26日の夕刻の訓練で、下図のようなMSBDのトラック(軌跡)が端末で捉えられた。その訓練では、飛龍と孫狼を要に、カーキ・冴月・峻・嶺をつけて6頭で訓練をしていたが、奥山方面で訓練した帰り、B/A地点を過ぎてC地点に来たときに、飛龍と孫狼がにわかに何かの浮遊臭に反応した。
 微妙な反応でどうういう意味かすぐには読み解けなかったが、とにかくヒグマが絡んでいるらしきことがわかったので、暗くなりかけているのが若干気になったが、急遽「追い払い」の訓練に入った。飛龍と孫狼はそのまま林内に入るのかと思ったが、林道上を顔を上げ気味にしばらく戻り、A地点から林内に駈け入った。

 直後の検分からわかった事実を先に書くと、あるヒグマがシカを1頭捕獲したばかりだったようで、仕留めたシカの首を咥えて移動途中だったP地点でMSBDに感知され襲撃を受け逃亡した、というあらましだ。恐らく、奥山方面で訓練している間に、このヒグマは幸運にも1頭のシカを捕獲することに成功し、食べるのに好ましい場所に運んでいる最中だったのだろう。


 イニシャティブをとっているのは、あくまでヒグマとの対峙経験が豊富な飛龍と孫狼で、そのほかは基本的に従属的に動いていたため、煩雑さを避けるために、2頭の動きだけを抽出して説明したい。

 飛龍は、A地点まで戻った後、方向を見定めてほぼシカを運ぶヒグマの方向に走っていったが、R地点でヒグマが逃亡に移ったことを感知し、方角を左側に転回しそのままヒグマを追った。A地点からP地点までは約100mだが、A地点では嗅覚ではなく聴覚を用いてヒグマの位置を把握していたと考えられる。
 一方、孫狼はほぼ同時に林内にA地点から入ったが、ヒグマが逃亡を開始したことを無視して、、そのまま直進しシカ死骸が置かれたP地点の横10m(S地点)で一瞬シカ死骸を確認してから、ヒグマの後を追うような動きになった。
 ヒグマに最も近かった飛龍がチェイスをやめてシカ死骸(P地点)の方向に戻るのに合わせるように、孫狼もP地点に戻った。

 林道から100mの距離だと、このヒグマは私の車両が林道を通過したことを、まず認知している。そして、クルマとヒトを関連づけて学習していると考えられるため、「ヒトとMSBDの襲撃」を関連づけて学習しただろう。

 ここまでの飛龍と孫狼の動きから、ようやく私もだいたい何が起きたかを推理することができたので、5分の時間をおいて飛龍と孫狼を呼び寄せた。孫狼は、もともと私がクルマを停めていたC地点に戻り、そこから林道上をB地点まで移動したが、飛龍は私がすでに移動して待機していたA地点に直に戻った。こういう差異は正解をつくるのではなく、差異を差異のまま置いておき、いろいろな状況分析に用いるほうがいい。

 「追い払い」の訓練を一段落させ、そこから、P地点まで歩きやすそうなルートを探し、B地点から私とMSBDはシカ死骸の検分に出かけた。
 この進み方だと、追い払われたヒグマがシカを取り返しにここに戻る可能性はほとんどない。もし仮に、ほかのヒグマがシカ死骸のにおいで接近してきたとしても、あれやこれやMSBDが6頭もうろついている場所なので、ほとんど危険を感じることはなくシカの検分をおこなうことができた。
 このシカ死骸に関しては、観光客への危険はないと判断し、放置したまま自宅に戻った。


 ここに書いたようなことを、実際は現場で事象の進み方に遅れることなく、MSBDの動きからできるだけ正確に読み解いていかなければならないのがベアドッグハンドラーだが、ここに書いたこと以外にも、例えば、孫狼の行動から「このヒグマはそれなりに大型のオス成獣だろう」とか、冴月(青色)の行動から「ヒグマはQ地点を過ぎた後、斜面を上方に駆け上ったらしい」などがわかるし、MSBD一頭一頭の心理的な動きも推察でき、それぞれの性格や習熟度・それぞれの関係性などを量ることもできる。

 私らにとっての訓練というのは、こういう現場経験を日々積んでMSBDとハンドラーが淀みなくいろいろに対処できるようになるためのものである。


比較的新しいヒグマの痕跡臭を追跡する場合
 地面や草木を嗅ぎながらヒグマの追跡に入った場合は、ヒグマの比較的新しい痕跡臭を追っている場合だが、その場合は、特にほかの予定・目的がない場合には、ヒグマに対するモチベーションを維持するために比較的フリーにやらせる。MSBDがこの追跡をする場合、追跡途中のどこかで現物の浮遊臭に出合い、チェイスに持ち込めることを期待しているので、空間か時間を制限しなければ延々きりがないことにもなりかねない。地形・植生によって多少の差はあるが、概ね、その場合の追跡距離は1㎞以内、時間としては30分という制限を持たせている。チェイスする距離同様、その距離で呼び寄せる訓練を積むことで、MSBDは自発的にだいたいその距離か時間で戻るようになる。


シカ死骸の浮遊臭を追う場合 
 ヒグマがまさに食べているわけではない「土まんじゅう」のシカ死骸をMSBDが感知した場合、ヒグマの現物に対してと似通った追跡の開始のしかたをするため、開始に段階で4との区別がしにくい。シカ死骸の場所に着いた段階での、MSBDの動き方によって、シカやクマの死骸があっただけなのか、その死骸にヒグマがついている状態だったのかは判るが、単なる死骸だった場合、10分程度の時間をおいて呼び戻し、その死骸の主が何であるかを確かめる。方法は簡単で、リーダー犬を近くに呼び、口のニオイを嗅ぐだけだ。慣れればそのリーダー犬が口にした死骸がクマかシカかはすぐ判るようになる。


シカやキツネの浮遊臭で追った場合
 特に若いMSBDの訓練をおこなっていると、周囲のシカやキツネを本能的にサッと追ってしまうことがよくある。半ば本能的なことで若い個体にとってはある程度仕方ないことだが、仮にそれを放置した場合のMSBDのシカ捕獲率が高く、ベアドッグとしては決して好ましいことではないので、訓練の中でその行動パタンを修正していく。
 ところが、それとは別に成犬になっても、よほどヒグマに合えない日が続くと「暇つぶし」としてシカを遊び相手にしてしまう場合がある。シカとMSBDが視認できない場合は、できるだけ早い段階でMSBDを止めて呼び戻す。視認できている場合には、シカ捕獲になるとにかく手前で止めればいい。特に後者では、シカを目の前にしてそれなりの欲求が働いているときのコマンド訓練になる。

(写真)2月、まだヒグマが冬眠明けしていない時期、訓練帰りに飛龍・孫狼とも集中力が散漫になり、一頭のシカで遊び始め、沢の中に追い詰めた。どちらも興奮どころかあまり意欲的でもないが、孫狼はあからさまにめんどくさそうに配置につくところ。ここで「COME」のコマンドをかけ、二頭を手元に戻し、シカを見送った。キツネにつままれたようなシカの顔が印象に残った。


スキャニング
 道路から200m以内に頻繁に活動する無警戒型のヒグマに対して、最も効果的な忌避教育方法として「スキャニング」と呼んでいる作業メソッドがある。「帯状の空間をヒグマに注目しスキャンしていく」という意味で、この呼び名になった。
 例えば下図のように、林道と山の落ち口の間に200m内外の河岸段丘林地があって、そこをよく利用する無警戒型のヒグマに対して、MSBDは山の落ち口沿いに進み、ハンドラーは林道上をそれより少し遅れ気味に静かに進む。このスキャンエリア内に問題の無警戒グマが存在した場合、MSBDを感知して林道側に逃亡してくることが多いが、その動きをGPS端末のMSBDの動きから読んで先回りし、MSBDとハンドラーの車両でヒグマを挟み打ちにする方法だ。


(写真)スキャニングからうまく挟み打ちに成功し、林道まで追い出されてきたヒグマ。待ち構える私に気付き、林道に出ることもできずその場に留まった。私からの距離は30m程度だったが、このヒグマが警戒しているのは追ってきているMSBDのほうだった。
 ここで、私が車両から出て立ち振る舞うと、私を個体識別してしまうので、終始車両の中でこのヒグマをコントロールした。
 結局、車両の後ろをすり抜けてこの個体は反対側の斜面に逃亡したが、この場所がキャンプ場から200mの距離だったため、それ以上、MSBDに追わせることはしなかった。
 この個体がこの経験で学んだことは二つある。一つは、この空間に対する忌避。もう一つは、MSBDとヒトに対する忌避。



B.徒歩の場合
 オフリーシュでMSBDとともにヒグマの探索をおこないながら歩く場合、MSBDが居るべき基本的な場所は概ねハンドラーの50m以内という設定で考えている。50m以内であれば、原則的に、それぞれのMSBDは自分が興味を持つ何かにかまけていてもいい。この場合、MSBDとハンドラーは意識できっちりつながっている前提があり、これを「見えないリーシュ」とも呼んでいる。この樹にも藪にも絡まないリーシュは、ともすると通常のリーシュより強く繊細で信頼できる場合もある。



 ハンドラーを中心にした半径50mからMSBDが外に出る場合もあるが、それはあくまでMSBDが何かに興味を持ち追跡するために自発的にやることなので、「自主トレ」と呼んで一定の許容をしている。徒歩の探索で自主トレが長引くことはまずなく、ハンドラーはMSBDの動きだけ把握しながら、マイペースでほかのことをできる。

 呼び戻した場合、5m以内に寄ればそれでいいし、戻ったらハンドラーの前で座る必要も全くない。





粛々と注意深く進む



ヒグマと対峙しても興奮せず、冷静にやりとりをおこなう
運動能力と持久力 スピード・対応力・

ヒグマ生息地での様々な経験

シカ

ルーティン・パトロール(RUN速い
ルーティン・パトロール(HIKEおそい
スキャニング
チェイス
取り囲み・対峙・牽制
牙当て
樹上への追い上げ
オンリーシュ


探査・痕跡の追跡→追跡→現物を感知→チェイス・取り囲み












仔犬近況報告などはFacebook:https://www.facebook.com/beardoghandler/ にて随時公開。









原則的に、追跡~追い払いまでのヒグマ対策ができる先輩犬がいると、仔犬の訓練はスムーズに進む。そのはじめの先輩犬は、育てるハンドラーが単独でヒグマの追跡・追い払いなどを十分経験しヒグマの特性を熟知していないと出来上がらない。





仔犬近況報告などはFacebook:https://www.facebook.com/beardoghandler/ にて随時公開。






 ベアドッグの概論はこのあたりで切り上げるとして、「狼犬の特性」「ベアドッグの育成」「ヒグマ対策の具体的な方法」などについての詳細は量が膨大となるため以下のリンクに記しておく。

     (I'm sorry.リンク作成中)

第7章:ベアドッグ(Beardog)                 ・・・57
  第1項:ベアドッグに適した犬               ・・・59
  第2項:Wolf-CrossBreedによるベアドッグの最適化と注意点 ・・・64
  第3項:ベアドッグの育成・教育と訓練           ・・・71
  第4項:べアドッグを用いた対ヒグマ活動の現場       ・・・78
     ベアドッグ2頭態勢の理由―――多頭飼いとパックシステム(BeardogPackSystem)
     フォーメーション(歩く陣形)とリーシュのオン/オフ
     ベアドッグにオフリーシュは必要か?
     ベアドッグの意義と実効性
  第5項:ベアドッグのオフリーシュメソッドの法的解釈とマナー ・・・96
  補足項:狼犬の社会化適期とブリーディング        ・・・103
あとがき)三者の関係学―――ヒトとオオカミとヒグマ     ・・・107
(2016年7月・岩井)



もくじ
第1章:基盤となる育成――人や他犬への親和性と非攻撃性の重要性
  魁(KAI)と凛(RIN)の社会化と教育
    補足)ハイブリッドウルフのノースに関して
  ベアドッグの育成・教育と訓練(概論)――優秀な超アルファとしての条件

第2章:ベアドッグを用いた対ヒグマ活動の現場
  ベアドッグ2頭態勢の理由―――多頭飼いとパックシステム
  フォーメーション(歩く陣形)とリーシュのオンオフ
    A.オンリーシュ・メソッド――並列型・直列型・自由型・1頭による作業
    B.オフリーシュ・メソッド――状況と目的に応じた臨機応変なフォーメーション
  ベアドッグにオフリーシュは必要か?
    1.調査において
    2.パトロールと夜間のシカ死骸回収作業
    3.「追い払い」において
    4.訓練において
  ベアドッグのオフリーシュメソッドの法的解釈とマナー
  自己基準による活動―――他者へのマナーと配慮
    1.場所の制限と許容範囲
    2.しつけ及び訓練の条件
  犬を動かす重要性<犬を止める重要性

参考資料:【「いこいの森」周辺のクマの出没状況】

(2015年9月・岩井)




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